アメリカの市民生活

増え続ける日本人移民

アメリカに移住する日本人が増え続けています。日本の現状や将来に不満・不安を持つ人が増えているのです。日本の破綻が近づいたら、ますます多くの日本人が日本を捨てるでしょう。

移民の歴史

 移民国家アメリカは今でも毎年、多くの移民を世界中から受け入れています。

 ゼノフォビア(外国人嫌い)の極右層を支持基盤に持つトランプ氏が大統領に返り咲いたとしても、移民に門戸を閉ざすことはあり得ません。移民を拒否することは自己否定を意味し、また現実問題として、移民なしでは人口が増えず、経済力も軍事力も維持できないからです。
 日本からも明治から昭和にかけての一時期、もっぱら経済的な理由から、非常に多くの人が命がけで、船で太平洋を渡りました。
 移住先は主にハワイ州や西海岸のカリフォルニア州でした。移住者の大半は貧しい農民の子息で、特に家を継げない二男や三男が多かったようです。
 こうしたいわゆる日系アメリカ人は、太平洋戦争が起きると、アメリカ政府から差別的な扱いをされ、12万人もの日本人移民、およびアメリカ生まれの日系アメリカ人が強制収容所送りにされたのです。
 戦後、高度経済成長を経て日本が経済的に以前と比べて豊かになると、日本からアメリカへの移民は急速に減りました。
 かつて日系人社会のシンボルとして栄えたカリフォルニア州ロサンゼルス市の「リトル・トーキョー」は、今は日系人がほとんど住んでおらず、風前の灯火となっています。

平成・令和の大脱出

 ところが平成時代の半ばごろから、日本からアメリカに移住する人が再び増え始めました。

 外務省の海外在留邦人数調査統計によると、滞在国から永住権を取得するなどして生活拠点を完全に海外に移した日本人の数は2023年時点で前年比3%増の57万4727人となり、ここ20年ほど増加が続いています。
 最も多い移住先はアメリカで全体の4割。カナダも含めると北米を選んだ日本人は48.7%。次に多いのが西ヨーロッパの16.9%。3位はオーストラリアなど大洋州の13.6%となっています。
 このように、日本人は、実は世界中に移住し始めているのです。まさに、平成・令和の大脱出です。

将来への不安、住みにくさが理由

 日本を捨てる理由は様々です。

 メルボルン大学の大石奈々准教授(社会学)らが実施した移住者へのインタビュー調査では、対象者の9割近くが経済への長期的な不安を挙げました。医療・年金など社会保障制度の持続に対する懸念などから、日本に住み続けることをリスクと捉える傾向が見えたといいます。(日本経済新聞より)
 永住者の62%が女性と、女性が3分の2近くを占めていることも特徴です。海外の方が女性に対する差別や偏見が少なく、日本よりも活躍できる可能性が高いと多くの女性が考えているためとみられています。
 このことは、社会における男女の平等度合いを測ったジェンダーギャップ指数でも裏付けられています。同指数の最新版(2024年)では、日本は世界146か国中、118位と極めて低いところにいます。
 新1万円札の顔、渋沢栄一氏の玄孫(孫の孫)にあたる渋澤健氏は、経済同友会の活動の一環として、アフリカで働く若い日本人を支援しています。
 そうした日本人の中には、アフリカで起業したシングルマザーもいます。澁澤氏に取材すると、その女性は日本よりアフリカの方が子育てしながら働きやすいと話していた、と教えてくれました。
 アフリカも都市部では通信インフラが整備され、携帯電話もインターネットも問題なく使えるので、生活の不便さはそれほど感じない、と滞在経験のある日本人は話します。

 私の知り合いで、カナダ人のパートナーがいるレズビアンの日本人は数年前、カナダに移住しました。日本は先進国で唯一、同性婚が認められていないため、日本で暮らし続けるのは不安だったと明かしてくれました。
 彼女は日本では外資系の大手会計事務所で働いていたので、カナダでもすぐに仕事が見つかったようです。

個人が国を選ぶ時代に

 戦前の日本脱出は、もっぱら極貧に喘ぐ人たちでしたが、平成・令和の日本脱出者の中には富裕層や専門職も多くいます。
 女優やタレントとして大活躍する杏さんは2年前、3人の子どもと共にパリに移住し、シングルマザーとして子育てしながら、仕事を続けています。
 海外で活躍した著名な日本人プロスポーツ選手の中には引退後も、その国を生活や仕事の拠点としている人が少なくありません。
 私の知り合いの経営コンサルタントの男性は、1年の約半分をハワイで過ごす生活を何年も続けています。
 こうした著名人や富裕層が最終的に滞在国に永住するとは限りませんが、在住実績があり、お金も持っているので、その気になれば永住権を得るのは簡単なはず。いわば、その子どもたち共々、永住予備軍なのです。

 インターネットやモバイルワークの普及で、職種によっては、地球のどこにいても仕事ができます。非英語圏でも今はみんな英語を話すので、言葉の壁もあまりありません。戦争は相変わらず絶えませんが、ある意味、世界は一つになりつつあるのです。
 「個人が国を選ぶ時代」。この言葉を最近、よく耳にするようになりました。
 国は個人に選ばれるような政策を実行していかないと、優秀・有能な人材から順に見捨てられていき、衰退し、滅んでいきます。
 日本も、外国人旅行者に選ばれている!と呑気に喜んでいると、早晩、滅びます。